大阪高等裁判所 昭和29年(う)268号 判決
原判決は「第一、被告人的池金二、同真継昭はいずれも株式会社淀川製鋼所元従業員であつたが、本件当時既に退職して居た者被告人土方与平は偶々東京より来阪中の者であつたが、昭和二十五年十月二十五日同会社が日本共産党員及びその同調者たる同社従業員五十三名を所謂レッドパージにより解雇したところから、同会社の寄宿舎である大阪市西淀川区百島町七番地所在百島寮においては解雇発表の前後を通じ、寮生の他多数の外来者がこれに加はり解雇反対の気勢をあげ、次第に不穏の空気が濃厚となつたので、事態を憂慮した同会社では之に対処して一まず外来者を同寮から退去させることゝなつたのであるが、(イ)被告人等は同月二十六日午後五時過頃前記百島寮事務所附近において同社常務取締役井上利行及び同総務課長片野養蔵の命をうけた総務課長代理岩佐恒造並に同寮舎監池川正水から交交外来者は即時退去すべき旨再三要求をうけたにも拘らず故なく同所を退去せず、(ロ)被告人的池金二、同土方与平はその際右岩佐恒造が外来者と寮生を区別するため点呼をとりだすや他の寮生等とスクラムを組み、或は課長をほおりだせ等と連呼し、或は労働歌を高唱する等多数の威力を示し共同して同人を門外に押し出す暴行を加え」と判示し、原判決挙示の関係証拠を綜合すれば右判示事実は充分これを認めることができる。弁護人は原判決が右寄宿舎百島寮に対する会社側の管理権を寮生の自沿権に優位する如く認定したのは甚だしい事実の誤認又は法令の解釈の誤であり、右寮における部外者の出入の調整は専ら寮生の自治権による管理の範囲内に属し、会社側がこれに介入する何等の法的原因や正当理由がない旨主張する。案ずるに労働基準法第九十四条によれば使用者の寄宿舍に寄宿する労務者はその寄宿生活につき自治権を有することは明かであるけれども、それあるが故に他面使用者の有する寄宿舎管理権の正当な行使までも妨げることは許されない。そして本件は当時百島寮に寄宿する寮生でない多数の外来者が寮生に加わり解雇反対の気勢をあげ不穏の事態発生が危惧せられるに至つたので、これを回避するためその対策として会社が一応外来者を退去せしめんとしたのであるから使用者たる会社のこの寄宿舎管理権行使は外来者に対してなされたのであり、何等寮生の右自治権を侵害するものでなく且つ又正当の事由に基くものとみなければならない。従つて所論寮生の有する自治権を云為して会社側の権限行使を不当視するわけにはいかないのであつて、その他記録に徴しても会社が本件百島寮から外来者を退去せしめんとした措置が不法であると認めるに足りる何等の資料もない。そして又前記原判決の判示の仕方が所論のように寮生の自治権を全然否定したものであるとは解し難く、原判決には所論の如き事実誤認又は法令の解釈を誤つた違法等は一も存在しないから論旨はすべて理由がない。
(中略)
右弁護人Bの論旨について。
弁護人は被告人小林吉彦同三本松三郎等の所為は何等脅迫行為でなく、少くとも被告人等は犯意を有しなかつたものである旨主張する。しかし原判決挙示の判示第二の事実に関する証拠を綜合すれば被告人小林吉彦同三本松三郎同真継昭は共に判示巡査森田宏一の警察活動を阻止せんことを企て森田方に到り同人に対し被告人小林吉彦は「今晩は共産党を代表して来た、君の行動は目に余るものがある。このまま放つておくことは共産党としてできない。皆の者は直接行動をとろうといつているが、自分がそれは未だ早いと抑えているのだ。」被告人三本松三郎は「君の警察活動を止めよ、止めないと必ず不幸が起る。」被告人真継昭は「自分は直接行動をとれといつたが小林が止めたのだ、君も妻子があるから、よく考えたらどうか、八幡屋の人達は皆君の敵ばかりだ」と各申向け以て右巡査が被告人等の言に従わず引続きその職務を遂行するにおいては共産党を背景として将来同巡査の身体等にいかなる危害が及ぶやも知れない旨を通告した事実を認めることができるのであつて右は前示被告人等が共謀の上森田巡査を畏怖せしめる目的を以て、多衆の威力を示し且つ数人共同して、同巡査を畏怖せしめるに足りる害悪の通告即ち脅迫行為をなしたものに該当すること疑なく、それが暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項の犯罪を構成し、それについての各犯意が存在したことはまことに明白である。所論のようにたとえ右害悪の通告により現実には同巡査に畏怖の念を生ぜしめなかつたとしても客観的にみてそれが畏怖せしめるに足りる害悪の通告である以上右犯罪の成立を否定し得ないものと解すべきである。
(後略)